Dear マロン

まひげワンちゃん

2017.08.30

   子供の頃住んでいたアパートに、時々遊びに来る犬がいた。人懐こい犬で、アパートの人たちに可愛がられていた。

 

   誰かがいたずらしたらしく、目の上にくっきりと、油性マジックで眉毛が描いてあった。それがトレードマークで、アパートの子供たちは、その犬を「まひげワンちゃん」と呼んでいた。

 

   しばらくすると、まひげワンちゃんのトレードマークの眉毛が、だんだん薄くなってきた。まひげワンちゃんにまひげがないなんて、それはダメだ。
   私はもう一度ちゃんと眉毛を描いてやろうと、油性マジックを持ってまひげワンちゃんに近づいた。

   いつもは触られせくれる子だったけど、油性マジックを顔に近づけると嫌がって逃げてしまった。

 

   なんで?元に戻してあげようと思っただけなのに。

「犬はそんなことされたくないんだよ。」
母親に言われ、眉毛がないのが普通の状態なのだと気付いた。

 

   あの子とどのくらいの期間関わっていたか覚えていないけれど、それ以来、眉毛を描こうとしたことはない。


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